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日本の教育はどうなってしまうのか

2020年07月01日[学長メッセージ]

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 上記の図を見ていただきたい。太い線でかいた円周の長さと、この円に内接する破線でかいた正六角形の辺の長さが同じになってしまうのだ。「えつ、そんな馬鹿な……」と思われる方がいるかも知れないが、本当である。実は2002年から小学校と中学校のカリキュラムが大幅に削減された。それに伴って、小学校の算数で、円周率は3.14ではなく3で教えてもよいということになった。もし円周率を3で計算すると、半径が6センチの上の図の円周はどれだけになるだろうか。自分で計算していただきたい。

 もし円周率を3として計算すると、円周の長さは半径×2×円周率だから36センチとなる。また、この円に内接している正六角形の一辺の長さは、図からも分かるように6センチだから、これも6×6で36センチとなる。授業の中で生徒たちにこの計算をさせ、「君たちは円周と正六角形の辺の長さが同じだと教えられても平気かな」と質問したところ、生徒たち全員が「絶対に嫌だ」と答えた。「そんな指導をされたら、僕たちはバカになってしまう」と言う。円周率を3で教えると子供たちでも明らかにおかしいということが分かるのに、なぜ学校ではそうするのだろうか。

 

 

 実は新しい教科書では、小数第二位以下の掛け算や割り算の筆算は扱わないことになるからだ。そういう計算をさせると、子供たちの負担が増えて「ゆとり」がなくなるという考え方があるようだが、これはとてもおかしな話だ。もしそのようなことになれば、子供たちは消費税の計算も暗算や筆算では出来なくなってしまう。パーセントも計算できなくなる。さすがに学校の先生も円周率を3で教えることには抵抗があるようで、実際には3.14で計算させている先生も多いと聞く。しかし、その場合でも、電卓を使っていいということになっているようだ。小数第二位以下の乗除は教えないのだから、電卓を子供たちが使うのもしかたがないということらしい。

 文部科学省は「ゆとりの中で生きる力を」と主張しているが、逆にこうしたおかしな「ゆとり」が子供たちのたくましく生きる力を奪ってしまうのではないだろうか。実は円周率が3.14と3では約5%の違いがある。この5%の違いは無視しても良いということになれば、消費税は払っても払わなくても良いということになるのではないだろうか。

 2002年の1月から2月にかけて実施された文部科学省の学力調査でも、子供たちの学力低下ぶりが明らかになった。小学五年生の算数で、半径10センチの円の面積を求める問題に正解を出した生徒の割合は、なんと全体の53.3%にすぎなかった。前回の調査時点の69.1%から大きく低下している。半径10センチだから答えは簡単に出せるはずなのに、二人に一人しか正解にたどりつけない。これは2002年の4月から実施されたカリキュラムと授業時間数の大幅削減前の調査であるから、次回の調査結果が恐ろしい。

 

 

 21世紀の日本の基幹産業のひとつにナノテクノロジーがある。ナノは10億分の1の単位だから、まさしく分子レベルで精密機械を作ることになる。数の精密性について上に述べたようなイージーな教育環境で育った子供たちが、ナノ単位の数字を扱えるような精神性を持った大人に育つとはとても思えない。学校教育がこのまま進めば、日本の高度な科学技術を支える人材は、将来日本人からは出なくなる。私たちの塾では、今後も円周率を3.14できちんと計算できるよう子供たちに指導していく。ここで取り上げた事例は、2002年から進められるカリキュラム削減のほんの一例にすぎない。どの教科でもこのような理解に苦しむカリキュラムの削減が行われている。中学校の理科ではなんと「昆虫の世界」が消えてしまった。社会でも、日本の国土や産業を総合的·構造的に学ぶ機会を子供たちは奪われてしまった。

 今、民間教育機関は、文部科学省の方針に安易に流されることなく、今後とも必要なことはしっかりと教え、真の「生きる力としての学力」を子供たちの中に育成していくという社会的役割を担っているのではないだろうか。

 

東進ゼミナール 学長 飯田陸三著 「何のために学ぶか」より