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ブラックジャックと呼ばれる天才外科医の生き方

~常に新しい医療にチャレンジしていく須磨久善さん~

横浜の大島光雄さんは、奥さんの則子さんの助けで小さなお寿司屋さんを営み、お客さんに喜ばれてきた。しかし、その奥さんが重い心臓病であと半年の命と宣告されてしまった。病名は「拡張型心筋症」と言い、心臓がメロンのように通常の三倍に膨れ上がり、全身に血液を送り出す機能を失う病気である。もし心臓が全身に血液を送る機能を停止したらどうなるであろうか。人間はたちまち死んでしまう。日本にはこの拡張型心筋症の患者が1万人以上いると言われ、死の恐怖に苦しんでいる。則子さんは度重なる心臓発作で、ついに店にも立てなくなってしまった。

 彼女の命を救うには、「バチスタ手術」を行うしかない。これは心臓を切り取り小さく縮めることでその収縮力を回復させる手術である。しかし、日本では誰も成功したことがない難しい手術であった。なにしろ心臓をメスで三分の一ほど切り取り、その後で極めて短時間のうちに心臓を取り巻く目に見えないような細い血管も含めて完全に縫いあわせなくてはならない。ほんの少しのミスも患者を死なせてしまうことになる。

湘南鎌倉病院の須磨久善医師に、則子さんは「もう自分には次の誕生日はないのでしょうか」と尋ねた。須磨医師は答えに窮した。もし手術に失敗すれば、自分の医師としての生命が絶たれる。社会的批判を浴びて病院の存続も危なくなる。バチスタ手術に挑まなければ、医者としての自分にはなんのリスクもない。しかし、則子さんは確実に死ぬ。自分の目の前に「なんとかして生きたい」と願っている一人の人間がいる。ご主人を助けもう少し夫婦で幸せな人生を歩んでいきたいと渇望している一人の女性がいる。「もう、本当に寂しくて悲しいという則子さんの気持ちがすごく伝わってきて、なんとかして助けてあげたいと心から思いました」と須磨医師は語っている。

 彼は手術を決意した。のべ20人のチームを率いてバチスタ手術に挑んだ。麻酔医から手術OKのサインが出た。胸を切り開く。やはり則子さんの心臓は通常の3倍にも肥大していた。そのままにしておけばまもなく死ぬ。手術を成功させるしかない。大動脈を閉鎖する。大動脈が開いていては出血多量で死んでしまう。人工心肺を動かし、心臓の動きを止める。溢れ出す血液を止める。そうしないと切り取るべき部分がまったく見えない。須磨医師は切除部分を瞬時に判断した。看護婦がすばやくメスを渡す。もし渡すメスを間違えたり遅れたりしたら、患者の命はない。須磨医師は驚くべき正確さと速さで心臓の一部を切り落とした。そして、間髪を容れず血管や筋肉、神経の縫合を行う。知識と技術と経験と決断力と体力と、そして手術にたずさわる全員のチームワークがなければとても成功はない。恐ろしいほどの時間との戦いでもあった。縫合が完了した。心臓が再び動き出すか、全員の視線が一点に集中した。則子さんの心臓が再び動き出した。手術室の中に歓声がわきおこった。見事に手術は成功した。一人の人間のかけがえのない命が救われた。則子さんは元気を取り戻し、ご主人のもとへ戻っていった。彼女はふと、「ああ、心臓が軽くなったみたい。これでお父さんと一緒にまたられる」とつぶやいた。須磨医師は、その後バチスタ手術によって50人以上の患者の命を救っている。

「医者とは何か」という問いかけに対し、須磨医師は次のように答えている。「医者というのは、患者のためにいるわけで、医者としての地位や名誉などどうでもいいことです。大切なのは、医者が患者に見捨てられないようにすることです。バチスタ手術に希望を託し、命を預けた患者のために必死に応えることが医者の使命なんです」。そして、そのためには自分は常に新しい医療にチャレンジしていかなくてはならない、とも語っている。患者たちは、彼を密かに「ブラックジャック」と呼んでいる。

勉強する本当の意味とは

私たちは生涯を通じて、多くのことを学びつづけていく。新しい知識や技術を身につけ、よりたくましく成長していく。だが、一番大切なことは、そうして学んだ自分の力を何のために使うかということではないだろうか。

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東進ゼミナール 学長 飯田陸三著 「何のために学ぶか」より

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