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昔の人はどうやって象の体重を量ったのか

2019年02月01日[学長メッセージ]

~数学は、知恵を使って豊かな生活を切り開いていくことに役立つ~

 

 陸上で最大の動物は象。およそ五トンから七トンある。もし皆さんが、「象の体重を量りなさい」と言われたらどうするだろうか。トラックの積載量をはかる大型重量計のところへ連れて行くのだろうか。あるいは、象をばらばらに解体して、一切れごとに目盛りばかりに乗せて量っていくのだろうか。 

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 昔々、家来に生きたまま象の体重を量るように命じたインドの王様がいた。

正確に量れたら褒美をとらすと言ったのだ。しかし、当時はそんな大きな体重計も秤も当然ながらなかった。みんなが困っていると、ひとりの男が進み出て「私が量ってみせましょう。ただし、船を一隻と石をたくさん用意してください」と申し出た。みんなが一体何を始めるのか興味を持って見ている中で、その知恵者は象を川に浮かべた船に乗せた。そして、象の重みで沈んだ船べりに印をつけておいた。それから象を船から下ろし、先ほど印をつけた位置に船が沈み込むまで石を一つ一つ積み込んでいった。もう皆さんには方法が分かっただろうか。その男は、今度は石を一つひとつ秤にかけて量り、その合計で象の体重を出したのである。この知恵者が王様からたくさんの褒美をもらったことは言うまでもない。「そんなことは出来るはずがない」と思えるようなことも、知恵を使えば解決できる。よく考えてみると、現代文明は人々の知恵の結晶とも言える。海に浮かぶ巨大なタンカー、空を飛ぶジャンボジェット機、人間の何千億倍の速度で演算するコンピュータ、世界中の人と情報の交換ができるインターネット、歩きながら遠くの人と話ができる携帯電話、数え上げればきりがない。一見不可能と思えることも、人間は知恵を使って次々と解決してきた。「知恵って、知識とどう違うのですか」という質問を受けたことがある。簡単には答えられない難問である。普遍的な知恵の定義は私には出来ないが、すこし思い当たることがある。皆さんのお役に立つと思うので、前に述べた象の体重を量る例で説明してみよう。

 

 まずは「置き換え」である。つまり、あるものを別のものに置き換える作業が必要だ。この例に即して言えば、象を石に置き換えている。このことによって「要素への分解」を可能にしている。分かりやすく言えば、大きなものを小さなものの集まりとして捉えていることになる。すなわち、大きな象を小さな石の集まりとして捉えているのだ。この「置き換え」と「要素への分解」を可能にするのが、この場合は船を使うということになる。これを「道具立て」という。この船という道具を使って、象を生きたまま小さな石に置き換えることに成功しているのだ。ここが知恵の最も重要な部分であろう。船という道具を使うという着想が、まさに「知恵」のハイライトとも言えよう。最後には「組み立て」という思考が必要になる。簡単に言えば、一つ一つの石を秤にかけてその重さを出し、それを合計して総重量を計算するというやり方だ。石の総重量が象の体重と同じであることは間違いない。

 

 こうした「置き換え」「要素への分解」「道具立て」「組み立て」という思考プロセスによって、現代の文明·技術は創造されていると言っても過言ではない。例えば、自動車などはその典型であろう。タイヤは人間の足の「置き換え」だし、駆動系は人間の筋肉の「置き換え」、ボデイは骨の「置き換え」、そしてエンジンは人間の肺や心臓の「置き換え」である。カーエレクトロニクスはさしずめ人間の脳を「置き換え」たものだろう。これらのメカニズムはそれぞれの要素に分けられて生産され巨大な工場という「道具立て」の中で「組み立て」られている。実は、こうした「置き換え」「要素への分解」「道具立て」「組み立て」という思考プロセスを鍛え上げる教科が数学である。発明家、科学者、技術者には数学の得意な人が多いことを納得していただけただろうか。よく「数学なんか勉強しても何の役にも立たない」という人がいるが、決してそんなことはない。数学の問題を解くことで鍛えられた頭は、知恵を使って豊かな生活を切り開いていくことに大いに役立つのである。

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 ひとつだけ、図形問題を使って説明してみよう。この問題は斜線分の面積を求める問題であるが、円の面積の公式を使ってやるととても面倒くさい。円周率三·一四で計算していくと、途中計算を間違えたりする。そんなことをしなくても、補助線という「道具」を使って上手に「分解」し、図形の移動という「置き換え」をしてやれば、わずか数秒で答を出せる。まず対角線を二本引き、三日月形を四つ作る。二つの斜線を引いてある三日月形を白い三日月形の中に移動してやれば、答は八平方センチメートルである。斜線分はちょうど正方形の半分になる。

 

 私の考えでは、この「置き換え」「要素への分解」「道具立て」「組み立て」という思考が柔軟に出来る人は、将来社会に出て大いに活躍できる。そして、あのインドの知恵者が王様から莫大な褒美をもらったように、豊かな生活という褒美を手に入れることが出来る。だから、「数学なんて役に立たない」と思わないでどんどん問題を解くように心がけてほしい。

 

東進ゼミナール 学長 飯田陸三著 「何のために学ぶか」より